情報系の道に悩める君へ
ここ最近、いわゆる「情報系」の進路について考える機会がたびたびあったので、曲がりなりにも情報系の進路を選んだ人間としての思いをここに記しておきたい。
情報系の道に進むと言うこと
「情報系の道に進む」と言うことを、ここでは「工業系、特に情報工学や情報科学をメインに扱う学科や学部を選択し、勉学に勤しむこと」を指すことにする。早い話が、工業高校の情報科に進んだり、大学の情報ナントカ学部とかに進んだりすることだ。
ここで、「情報系」と呼ぶものは「情報科学」「コンピュータサイエンス」とは似て非なるものであることに注意して欲しい。進路に悩む若者であれば尚更である。
もしあなたが誰かに―おそらくヒゲを生やした不健康そうな男だろう―情報系の進路について相談したとき、「そもそも情報とは」とか「情報理論が」などと言い出したら注意が必要である。あなたはその瞬間のために、次のおまじないを覚えておくべきである。
あなたの言う「情報系」はジャバ、私の考えているものはジャバスクリプト、それぐらい違う
意味は分からなくて良い。ガクシャやケンキュウシャという病気に取り憑かれた人間をおとなしくさせるためのおまじないである。このおまじないを正しく唱えれば、相手は黙るはずである。そうしたら、あなたの描いている未来について話そう。もし黙らなかったら、その人に相談する価値はないので、「コロンキュービックリ」とか「えんいー」と叫びながら逃げ出すと良いだろう。
閑話休題。さて、情報系の道に進もうかどうか悩む人は、おそらく最も合理的な方法、つまり損得勘定で決めようとするだろう。
「情報系の道に進む」ことで何を失い何を得るだろうか。
簡単に言えば、「学校に行っている間の時間の分だけ、他の分野に費やす時間」を失い、「学校に行っている時間の分だけ、情報系の知識や経験を身につけることができる時間」を得る。当たり前の話だけれど、これは極めて重要な事実である*1。
では、具体的にどんなことになるのか。例を挙げるならば、イラストレータになりたいけど結局情報系の道を選んだ人間は、イラストレータを目指して情報系の道を選ばなかった人間に比べ、絵を描くことに費やせる時間が減り、イラストレータになりにくくなる。言い換えれば、誰もが共通して持っている「時間」という資源を、ある人は情報系の分野に費やし、ある人は絵を描くことに費やす。その結果が異なって来るであろうことは想像に難くない。時間を投資しなければ、結果は得られないのだ。もちろん、時間を「絵を描くこと」に投資したからと言って、必ずイラストレータになれるわけでもない。
なに、工学系の学生でも小説書いたり音楽作ったりしている奴も居るだろう?ごもっとも。そういった人たちは、「学校に行っている時間」以外の時間を投資しているだけである。彼らは、時間を積極的に投資しているだけである。なにせ、時間という資源は、放っておけば減っていくのだ。
というわけで、「情報系の道に進む」とは、時間という資源を「情報系分野」に投資することを意味する。これは他の分野でも同じ事である。
そこで、他のどんな分野でもなく「情報系分野に投資する」ことについて考えてみたい。
情報系分野に時間を投資すると言うこと
では、情報系分野に時間を投資することで、具体的に何が得られるのだろうか。
簡単に言えば、便利な道具の使い方を覚えることができる。それも、現代においてとても役に立つ道具である。
大工の道を志した人間は、ノコギリやトンカチ、カンナやノミの使い方を学ぶだろう。それによって、木材と道具があれば、いろんなものが作れるようになる。それはきっと楽しい。
情報系の道を志した人間は、ツールやプログラミング言語、ライブラリの使い方を学ぶだろう。それによって、コンピュータとツールがあれば、いろんなものが作れるようになる。これはとても楽しい。
大工の道を志せば、ふと「こんな本立てが欲しい!」と思ったときに、木材を買ってきて加工することで、自分の欲しい本立てを作ることが出来るようになる。
情報系の道を志せば、ふと「こんなソフトが欲しい!」と思ったときに、目の前のパソコンでプログラムを書いたりすることで、自分の欲しいソフトを作ることが出来るようになる。
残念なことに自分は大工の道を志していないので、これ以上のことは書けないのだけれど、道具の使い方を覚えるというのはそういうことである。その道具を使った仕事で生計を立てていくかも知れないし、そうじゃなくても庭に犬小屋を建ててと娘にねだられる日が来るかも知れない。
要は、情報系の道に進むということは、パソコンと言う名の道具の使い方を身につけると言うことである。
情報系の道に進んでも得られないもの
さて、進路に悩む人にとって大事なのは「得られそうだけど得られないもの」だろう。情報系と括ったときには、そのギャップについては枚挙に暇がないほどだと思うが、決定的なものについて述べておきたい。
情報系の道に進んでも、チヤホヤされない。
この事実を受け止めて欲しい。絵を描ける人や音楽を作れる人、料理を作れる人や工作が上手な人に比べて、圧倒的にチヤホヤされない。もちろん、チヤホヤされるようなプログラマやエンジニアも存在するが、これはトップアイドルを目指すようなものなので、圧倒的熱意のある人は頑張って欲しい。私にはトップアイドルをプロデュースするぐらいで十分でした。
情報系においては、チヤホヤされるボーダーラインというか、チヤホヤされるための条件のようなものが厳しいのだ。何せ、ぱっと見、華がない。プログラマならばまだ良いが、ネットワークエンジニアと呼ばれる人たちは、成果が表に出にくい。あなたが普段、水道を支えている技術者に感謝しているかどうかを考えてみれば良い。おそらく、存在すら気に留めたことがないだろう。そういう類いの世界がたくさんある。
情報系の道というと、よく「ゲーム作るの?」と言われるが、彼らが評価するのはゲームの外見であり、プログラムそのものではない。ゲームシステムやストーリ、グラフィックは評価されても、ゲームエンジンが評価されることは稀である。そういうことだ。そもそも、情報系の道に進んでゲーム制作に携わる人間自体が稀である。
段階別・進路に悩むあなたへ
最後に、情報系に進むか悩んでいる人たちや、進んでしまったが悩んでいる人たちに向けてメッセージを送り、筆を置きたい。
小学生のあなたへ。いまできるあそびをせいいっぱいたのしんでください。
中学生のあなたへ。情報系の道に進むと、エロに強くなります。中学の時点で交際相手が見つからなかったら、選択肢として検討してみてください。でも、まだ決断しなくても間に合います。自分が何をしたいのか、チヤホヤされたいのかについて、ゆっくり考えてみてください。
高校生のあなたへ。情報系の道に進むと、ひょっとしたら仕事に役立つ可能性が上がるかも知れません。パソコンが「暇つぶしの道具」以上の何かに見えるなら、選択肢として検討してみてください。何かを作ることが好きな人であれば、楽しめるかも知れません。
情報系を選ばなかった大学生のあなたへ。社会人としてやっていく上で最低限必要な情報系の知識というものを身につけておくと、少しだけ役に立つかも知れません。
情報系を選んだ大学生のあなたへ。あなたは何を作れるようになりましたか?作っていて楽しかったですか?楽しく感じた人で、まだ働きたくなかったら、大学院を検討してみてください。楽しくなかった人は、シャカイに溶け込むために、オフィスを使えるようになっておくと良いでしょう。
情報系修士課程のあなたへ。卒業論文はどうでしたか?研究のなかに楽しい要素は少しでも見つかりましたか?その要素を延ばしていきたいと本当に願うのなら、博士課程を検討してみてください。でも、悩むくらいなら、やめておいた方が良いかも知れません。楽しい要素が見つけられなかった人は、研究という苦痛にして有意義な活動のなかで身につけたものが、今後どのように活かせるかという視点で物事を考えてみると良いと思います。
情報系博士課程のあなたへ。死なないで。
*1:授業中の内職については考えない。勉学に勤しむこと、を「情報系の道に進む」の定義に盛り込んでいるのはそのためだ